拓本12.20
みなさんは『拓本』というものをご存知でしょうか?石碑などに刻まれた文字を紙に写し取ったものです。運動場の片隅に、古ぼけた石碑があります。「井田一平氏満八十歳記念寄贈」と刻まれています。石碑の上部には穴が貫通しています。大正七年のものであることがわかりました。今から100年前のものです。その謂れを地域の何人かの人に尋ねましたが誰も知りません。「きっと地域の経済力豊かな人が道楽で建てたんだろう」と失礼なことを考えていたら…。先日松阪ガイドボランティアの方と四五百の森の拓本会代表の方がいらっしゃいました。お話を聞いてみると石碑にあった「井田一平」さんはとても立派な方で、三井家の大番頭をされていた方だそうです。そして松阪市内の小学校に、当時も高価であったであろう体育用具や設備を寄贈されたそうです。石碑上部にあった貫通した穴は鉄棒を通した穴らしいです。実は第一小学校、第三小学校の沿革史にはそのことが記されているそうなのですが、残念なことに石碑は撤去され、その存在はわからないそうです。しかし、第二小学校には現存しているということがわかって、拓本をとりにお二人がいらっしゃったということでした。第二小学校でもその石碑の歴史的意味をわかっていたわけではありません。ただ昭和26年の松阪大火でこの第二小学校も現在地に移転しているので、その当時はまだ井田一平さんのご厚志を知り次の世代に語り継いでいこうと思われた方が、石碑も一緒に現在の場所に移動させたことが想像されます。1本の石碑から、思わぬ歴史をたどることができました。